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身近な生活にある薬用植物 日本家屋と植物
 伝統的な日本家屋や和風の部屋と言われて、皆様どのようなものを思い浮かべるでしょうか。畳敷きで、障子や襖があり、床の間や縁側があって・・・。私たちは共通したイメージを持っていると思います。いくら伝統的と言っても、竪穴式住居まで遡る方はあまりいないでしょう。日本文化の源流とも言われる平安時代にも、私たちが考える日本家屋はまだ完成していません。「源氏物語」の舞台となる貴族の邸宅の床は板の間、今で言うフローリングで、畳は敷き詰められていません。
 それでは、私たちがイメージする家屋が登場するのは一体いつのことなのでしょうか。
 その答えは、銀閣寺として知られる慈照寺に見ることができます。現在は寺と称されていますが、室町幕府8代将軍足利義政が隠居所として造営した当時は東山山荘と呼ばれていました。一群の建物の中に、書斎兼居間として使われていた1486年造営の東求堂同仁斎があります。この部屋には、畳が敷かれ、障子や違い棚のある床の間もあり、一見、高級旅館の一室のような趣で、現代の私たちが見ても全く違和感がありません。500年前の室町時代に造られた建物のイメージが今も私たちに受け継がれていることに驚かされます。
 日本建築の集大成とも言われる建物が、京都の西南、桂川のほとりにある桂離宮です。この地は古くから、観月の名所として知られ、宮廷貴族の別荘が営まれていました。桂離宮は、江戸時代初期の17世紀の初め、八条宮智仁親王が、古きよき王朝文化に憧れて造った別荘です。簡素でありながら、室内の調和をはかるため、柱の節の位置まで緻密に計算されており、日本美の象徴とも言えるでしょう。昭和8年(1933年)、ドイツの建築家ブルーノ・タウトが桂離宮を訪れ、「泣きたくなるような美しさ。永遠の美ここにあり。」と絶賛したことから世界に知られるところとなりました。
 桂離宮の建物には49種類もの木材が使用されていると言われています。さらに、襖紙、障子紙の原料や、畳の素材まで数えると、さらに多くの植物が利用されていることになります。桂川の対岸には江戸初期から大正期まで木材の集積場があったことから、全国各地の銘木・珍木を使うことができたようです。
 現在でも国土の70%が森林で占められる日本。その植物を生かし、日本の気候・風土に育まれた日本家屋は、自然と共に生きてきた日本人の知恵の結晶とも言えるでしょう。そのような建物は今では本当に少なくなってしまいましたが、これからも永く日本人の心に生き続けて欲しいものです。

記事:エーザイ株式会社お客様ホットライン室
         尾形  武彦(2003年9月)
畳と襖
<桂離宮の建築に使われている植物>
アカマツ[赤松]  クロマツ[黒松]   堅くて強く、耐久性もあるため、建物の梁などに用いられてきました。しかし、松脂が表面から浮き出し、ソリやネジレもよくおこしやすい材です。樹形や木目が変化に富んでおり、見た目の面白いものは床の間など、装飾的に使われる場合もあります。桂離宮古書院では、柱を含め、松が多く使用されています。
イネ[稲]   稲の茎を乾燥させた藁は、瑞穂の国と言われる日本では非常に身近なもので、俵や縄、むしろなどの材料として生活に無くてはならない素材でした。藁は土壁の強度を増すために混ぜられ、畳床(畳表をはる芯の部分)としても使われるなど建築の世界でも活躍しています。桂離宮御殿の白い外壁は、表面にぶつぶつのある「ぱらり壁」と呼ばれる特殊な漆喰塗りになっており、光の当たり方によって、いろいろな表情を見せてくれます。
カキ[柿]   ゴルフクラブのパーシモンでおなじみの木材です。重く堅い木材で、肌目は緻密ですが、加工がしづらく、割れやすい特性も持っています。和家具や装飾材として用いられ、桂離宮では、松琴亭の連格子などに使われています。また、若い果実からとれる柿渋は、耐水、防腐、防虫などの目的で木材に塗布されます。
キリ[桐]   柔らかい材質のため、柱など構造材には向きませんが、色白でくるいが少なく、耐火性もあるため、家具、建具などに使われます。桂離宮でも、襖、袋棚の背面などに使用されています。
クリ[栗]   重く堅く弾力もあります。湿気にも強く、長持ちする材料です。しかし、加工が難しく、釘打ちなどで割れることもあります。線路の枕木や家の土台などに使われますが、桂離宮では松琴亭茶室の床脇柱などに使われています。
ケヤキ[欅]   広葉樹では日本を代表する銘木です。堅く、強く、狂いも少なく、木目も鮮明で、磨くと独特の光沢が出ます。桂離宮では、棚板などに使われています。
コウゾ[楮]  ミツマタ[三又]   繊維が長く強靭なことから、ともに和紙の原料となり、障子紙、襖紙として使われます。中書院には、狩野探幽筆の見事な襖絵を見ることができます。ちなみに、美しさと丈夫さで評価の高い日本の紙幣はミツマタが原料の和紙でできています。
スギ[杉]   日本原産で、全国に幅広く分布し、強靭で濡れても腐りにくいことから、建築材として古くから利用されてきました。桂離宮でも、柱、広縁の縁板など広く使用され、遠く屋久島から運ばれた屋久杉も見ることができます。
チャ[茶]  カシ[樫] 建築の材料ではありませんが、茶は桂離宮の重要な要素です。生活の場である書院と、一種の社交の場、サロンであった茶亭、茶室の融合と対比に興味は尽きません。樫は、茶の湯の湯を沸かす炭の原料になります。有名な備長炭も樫から作られます。「木偏に堅」という漢字からわかるように大変堅い炭ができます。ガスも少なく、ゆっくりと一定の温度を保って長時間燃えるため、茶の湯に最適と言われています。
ヒノキ[桧]   きめが細かく、適度な堅さがあり狂いも少ない上、腐りにくく水湿に対する耐久性も高い木材です。さらに、特有の香りと光沢もあり、建築材としては最良と言われています。桂離宮では、銘木とされる日向(宮崎県)の隈原桧も使われています。
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