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くすり博物館のちょこっと歳時記
神秘的なジャコウアゲハと薬草 (2016.08.26 伊藤恭子)


ジャコウアゲハ(オス)
(麝香鳳蝶、麝香揚羽)
学名: Byasa alcinous または Atrophaneura alcinous


ジャコウアゲハ(メス)


ジャコウアゲハ(サナギ)


ウマノスズクサ(ウマノスズクサ科)
別名 馬兜鈴(ばとうれい)ウマノスズカケ
根を解毒、消腫薬とする他、果実を馬兜鈴と呼び、鎮痛、去痰薬とする。アリストロキア酸を含み腎障害を起こす副作用が知られる。

 夏休みのこの時期になると薬草園の花にはさまざまな蝶などの昆虫がやってきます。涼しい時間には薬草園を散策しているとヒラヒラと優雅に舞うジャコウアゲハが見られます。
 それではなぜジャコウアゲハが薬草園に見られるのでしょうか。ジャコウアゲハは卵を薬草のウマノスズクサに産み、幼虫はウマノスズクサの葉や茎だけを食べて育ちます。4回の脱皮を経て幼虫はサナギになり成虫になります。
 ウマノスズクサの名前の由来は熟した果実が馬の首にかける鈴に似ていることがこの名の由来です。ウマノスズクサは強い毒性成分(アリストロキア酸)を持ち、昆虫による食害から身を守っていますが、ジャコウアゲハの幼虫はウマノスズクサのアリストロキア酸をせっせと食べて体内に蓄積し、小鳥などの天敵から身を守っています。さらに雌はウマノスズクサに産卵する際、生んだ卵にアリストロキア酸を含むクリーム状の物質を塗布して外敵から守っているのです。
 ちなみにジャコウアゲハの名前の由来はオスが発する匂いがシカの麝香に似ているからです。麝香は香料の原料として知られ、ジャコウジカの雄の香嚢から取り出す分泌物です。麝香腺の分泌機能は繁殖期に特に活発となり、また匂いも強くなることから、分泌物は雌を引きつけるフェロモンとして機能していると考えられています。芳香の成分は効能ムスコンという物質で、薬理作用で注目されるのは中枢興奮の働きです。
 薬草園を散策すると夏の植物や昆虫に多くのことを教えてもらえそうです。虫網をもってジャコウアゲハを採集しに薬草園にいらしてはいかがでしょうか。

<参考引用文献>
山渓フィールドブックス5 山と渓谷社 2006
アゲハチョウ 観察ブック 偕成社 2009
身近な漢方薬材事典 鈴木昶著編 東京堂出版 1997
原色牧野和漢薬草大図鑑 三橋博監修 北隆館 1998
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