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くすり博物館のちょこっと歳時記
東方三賢人からイエス・キリストへの贈り物:ニュウコウジュ
(国内最大級のニュウコウジュ)
 (2015.12.25 亀谷芳明)

 12月25日はクリスマス。街はイルミネーションなどで賑わいを見せ、この日が訪れるのを楽しみに待っている方も多いのではないでしょうか。
 さて、このクリスマスですがイエス・キリストの生誕を祝う日ということはよく知られています。この時に生誕を祝って三つの贈り物が贈られますが、それについては聖書の中にこのように記されています。「イエスが生まれたとき、東方から三人の賢人が現れ、黄金、乳香(ニュウコウ)、没薬(モツヤク)を幼子イエスに捧げた」(マタイの福音書2章11節)とあります。この三つの贈り物にはそれぞれ意味があり、黄金は現世の王、乳香は神、没薬は救世主を表すとされています。これは、世界の全てをイエスに捧げたことを象徴的に示しているとされています。乳香と没薬は植物から得られる樹脂を固めたものになります。
 当園の温室では、黄金は展示できませんが乳香を採るニュウコウジュ(Boswellia carterii)と没薬を採るモツヤクジュ(Commiphora sp.)を栽培しています。その内、ニュウコウジュは、樹齢30年程、高さ約2.5mで、幹の太さは地面に近い所で約8cmになり、生育が遅いので国内の植物園等で見られるものとしては最大級になります。この植物はカンラン科でアラビア半島南部にあるイエメンやオマーン、東アフリカのエチオピアやソマリアなどに生育します。樹木に傷をつけると、傷口から粘着性のある乳白色の樹液が染み出てきます。この樹液は空気に触れると白濁し、固まり始めます。
 乳香は古代エジプトやローマにおいて神殿での祈りなどの宗教的儀式に重要な薫香料とされてきました。古代エジプトでは没薬とともにミイラ作りに使われた薬剤であり、鎮痛・排膿・止血薬としても使われました。当時は金と同等の価値があったと言われ、乳香の交易で栄えたアラビア半島南部に残る遺跡のうち、オマーンのドファール州にあるオアシス都市遺跡、港湾遺跡、交易路跡、乳香群生地などが「乳香の土地」という名称でユネスコの世界遺産に登録されています。
 当園の温室では、ニュウコウジュをクリスマスシーズンに限らずにご覧いただけます。古代から今日まで薫香料として重宝されてきたこの植物にぜひ会いにきて下さい。

<参考文献>
聖書の植物物語 中島路可著 ミルトス
聖書の植物 H&Aモルデンケ著 八坂書房
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