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くすり博物館のちょこっと歳時記
植物に由来する抗がん剤 (2014.06.27 伊藤恭子)


ニチニチソウ


セイヨウイチイ


カンレンボク
 植物の中には強い毒性をもつものがあります。これらの毒性を発揮する成分の多くは植物アルカロイドと総称され、このうち細胞の増殖を阻害する作用を持つものが抗がん剤に利用されました。しかしこれらが注目されるようになったのは20世紀半ばのことです。
 糖尿病の治療薬インスリンの初期の研究者のカナダの医師が、ある植物の葉から成分を抽出して試したところ、その成分は血液中の白血球の成分を抑えることを発見しました。さらに同じ植物から抗がん剤で使われている「ビンブラスチン」「ビンクリスチン」も分離しました。この植物は日本の家庭でもよく見かけるピンクや白の花を咲かせているニチニチソウでした。
 他にも、抗がん剤を探す試みが各国で続けられました。針葉樹のセイヨウイチイの成分からは「パクリタキセル」や「ドセタキセル」が、また落葉樹の高木カンレンボクの成分からは「イリノテカン」、「ノギテカン」が作り出されました。

 植物アルカロイドを起源とする抗がん剤は、その作用のしくみから主に「微小管阻害剤」と「トポイソメラーゼ阻害剤」の二種類に大別されます。細胞分裂が行われる際、細胞の中ではDNAが複製され、複製されたDNAは微小管によって引き寄せられ、分裂後のそれぞれの細胞に分けられますが、この微小管のはたらきを阻害するのが微小管阻害剤です。トポイソメラーゼは、細胞分裂の過程でDNAの切断と再結合を助け、二重らせん構造をときほぐす働きを持ちますが、その働きを阻害するのがトポイソメラーゼ阻害剤です。

 身近な植物の中に抗がん剤の成分が含まれていたことに驚きを感じるとともに、他の植物の研究にも期待したいものです。
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