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くすり博物館のちょこっと歳時記
祈りの桜 (2014.03.28 稲垣裕美)




中将姫誓願桜(岐阜市・願成寺)


中将湯の暦入り広告(大正3年)
 まもなく桜の季節がめぐってきます。岐阜市の北東部にある願成寺(がんじょうじ)のヤマザクラは「中将姫誓願桜(ちゅうじょうひめせいがんざくら)」と呼ばれています。この桜は、鎌倉時代の伝説に登場する中将姫ゆかりの古木です。中将姫は継母から受けたひどい仕打ちに耐え、後に帝に見初められるほど美しく聡明に育ちましたが、世の無常を感じて仏門に入ったといわれています。
 願成寺に伝わる伝説では、継母の追っ手から逃れる途中でこの寺に立ち寄った折に、長旅の疲れと冷え込みのために婦人病にかかった姫が観音さまに祈ったところ、たちまち病気が治り、そのお礼に境内に1本の桜の木を植え、その木に観音さまをお守りするよう頼みました。同時にこの桜の花や枝を大切に持つ女性を災厄から守ってくださるよう祈ったことから「誓願桜」の名前があります。この桜はヤマザクラの変種で、県の天然記念物に指定されているため、残念ながら現在では花や枝葉を採取することはできませんが、どなたでも近くで見ることができます。
 かつて桜は花を見て楽しんだり葉を桜餅に使う以外にも、民間薬として使われました。江戸時代薬用とされたのは、ヤマザクラやエドヒガンなどの樹皮で、江戸時代には桜皮(オウヒ)と呼ばれ、食中毒や咳止めに用いられたそうです。明治時代には中将姫の名前を冠して「中将湯」というお薬が販売されています。当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)などを主成分とするこのお薬は、奈良県の當麻寺(たいまでら)での修行中に薬草の知識を得た姫が津村順天堂(現・(株)ツムラ)の創業者の祖先に教えた処方といわれています。同社では婦人薬・中将湯のトレードマークとして信心深く心優しい姫の姿を看板や暦入りの広告に用いてきました。中将湯の広告と戦前の製品はくすり博物館の常設展でご覧いただけます。
 薬草園ではヤマザクラとシナミザクラを栽培しています。桜の季節にご来館いただき、花にこめられた健康への祈りに静かに思いをめぐらしてみてください。
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