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くすり博物館のちょこっと歳時記
起死回生のくすり (2013.09.27 伊澤 大)


ヒキオコシ


ヒキオコシの花


宝丹の看板


宝丹の薬袋
 この記事が載る頃はまだまだ暑いくすり博物館です。今回は起死回生のくすりと言われたご利益のありそうな薬草を紹介しましょう。
 ちょうどこの時期、九月の中旬から十月の上旬にかけて「ヒキオコシ」という薬草が薄紫色の花を咲かせます(写真)。ヒキオコシは北海道より南のやや乾燥した山地に自生するシソの仲間の多年草です。かつては日当たりのよい山野に見られたそうですが、近年ではその姿を見つけることも難しくなりました。
 その昔、弘法大師が病に倒れ苦しむ旅人に葉の搾り汁を与えたところ、たちまち回復した、という逸話から引き起こしの名がつきました。葉っぱを噛むとたいへん苦い薬草で、起死回生の秘薬とされていたそうです。
 「良薬は口に苦し」と言われますがヒキオコシの苦さは横綱級です。生薬名は延命草(えんめいそう)と呼ばれ、開花時期の地上部を乾燥させたものを煎じて用います。消化不良や腹痛に効果があるとされ、苦味成分が胃の働きを活発にするそうです。ゴーヤやオウバクも苦いですね。成分は異なりますが、苦味で胃の働きを活発にする生薬は苦味健胃薬として古くから使われてきました。
 さて、くすり博物館には「起死回生」という言葉がキャッチコピーになった薬の看板が展示されています(写真)。「宝丹(ほうたん)」と呼ばれたその薬はハッカやトチバニンジン、チョウジなどを配合したもので、かくらん・吐しゃに用いられました。江戸時代の後期から明治にかけて人気を博したくすりで、現在でも市販されている伝統薬です。当時「かくらん」と呼ばれた症状の多くは細菌による食あたりや寄生虫による腹部不快感と思われます。殺菌成分や胃の蠕動を活発にする生薬で症状を軽減したのでしょう。
 幕末にもなると「万病に効く」などと誇大広告とも思える怪しげなくすりや効果のほとんど期待できない迷信じみたくすりも続々と現れました。現在でもさまざまな健康食品やサプリメントが世に送りだされていますが、今も昔も似たようなことが起っていたようです。こうした背景から明治維新後、日本でも西洋にならって薬事法が整備され、効果と安全性が確実なものを国が認可することになりました。宝丹は明治政府が認可したくすりの第一号とされ、国の承認を得たことを示す「官許」の文字が記されています。長く暑かった夏に食傷気味の方、くすり博物館に来てヒキオコシの葉を噛んでみませんか。これを読んでくれた方に1枚、ご提供します。スタッフに声かけて下さい。あまりの苦さにシャキッとすることうけあいです。

※かくらん・吐しゃ 嘔吐を伴う暑気あたりの病の総称
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