くすりの博物館
サイト内検索
もうひとつの学芸員室
人と薬のあゆみ 薬草に親しむ 内藤記念くすり博物館のご案内 もうひとつの学芸員室くすりの博物館トップページへ


遊ぼう!動かそう!中野コレクション
見てみて!くすり広告
パネルクイズ「資料でふりかえる鍼と灸」
やってみようツボ体操
薬と秤量によって毒にも薬にも
くすりの夜明け−近代の医薬ってどんなものだったんだろう?−
江戸に学ぶ からだと養生
綺麗の妙薬〜健やかな美と薬を求めて〜
病まざるものなし〜日本人を苦しめた感染症・病気 そして医家〜
江戸のくすりハンター 小野蘭山 −採薬を重視した本草学者がめざしたもの−
学芸員のちょっとコラム
館長のトリビア
館長の黙して語らず
依存性薬物のいましめ(2008.05.02)
bar
館長です

 4月10日に大空真弓の長男(32歳)が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された。3度目である。昨年11月に三田佳子の次男(27歳)が同じ容疑で同じく3度目の逮捕というニュースもまだ記憶に新しい。その度に母親の涙ながらの会見場面をテレビでお目にかかるが、3度目ともなるともはや言うべき言葉はない。
 「覚せい剤取締法」による覚せい剤は、フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)、フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)及びその塩類、同種の覚せい作用を有するものであって政令で指定するものとある。いずれも合成で作られるが、メタンフェタミンの原料はエフェドリンである。エフェドリンは1885年に長井長義がマオウから抽出し、気管支拡張作用を有することから喘息の治療などに用いられる。そのエフェドリンからメタンフェタミンを初めて合成したのも長井である(1893年)。覚せい剤に類似した中枢神経興奮作用によって快感を覚え、爽快な気分になるものにコカインがある。ちなみにコカインは「麻薬及び向精神薬取締法」の対象となっている。

 すでに紀元500年ごろ、南米ベルーの原住民の間では、疲労回復や忍耐力促進にアマゾン湿地帯で栽培されていたコカの葉を噛む風習があった。コカノキ科コカノキの葉で成分としてコカインを含んでいる。16世紀にコカはスペインに伝わったが、1875年にパリで大流行させたのはアンジェロ・マリアーニであり、ワインに適量のコカ葉を入れた“マリアーニのコカワイン”はヨーロッパ中に知れ渡り、音楽家、皇族からローマ法王に至るまで愛飲したという。マリアーニは法王から感謝のメダルを受け、また巨万の富を得た。
 コカ・コーラが世界的な飲料になる前には、コカ葉とコラ子(アオギリ科コラノキの種子、カフェインを含む)が入っていた。20世紀初頭、アメリカ政府はアトランタのコカ・コーラ社にコカは有害であるから除くよう勧告した。法律的な大論争の末、会社側が折れてコカを除くことになった。さらに社名からもコカを削除すべきという論争に発展したが、「コカ・コーラ」というひとつの言葉との主張が認められ会社側が勝利して現在の社名と商標が残った。
 コカインは、1855年にドイツのゲデッケによりコカ葉の活性成分として分離され命名された。1884年にカール・コラーがコカインの優れた局所麻酔作用を発見し眼の外科手術に応用した。局麻剤としてコカインは重要な役割を果たしたが、薬物依存性が避けられずやがて合成プロカインに取って替わられた。

 くすりの役割は、ヒトの生命を守り健康を維持することにある。すぐれた作用を有する薬物でも快楽を求める具となってはその存在意義を失う。


戻る
ご意見ご感想著作権について Copyright(C), Eisai Co., Ltd. All rights reserved.