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「顧みられない熱帯病」をもっと知ろう (2016.07.01)

 今年度の企画展のタイトルにある「顧みられない熱帯病」って一体何なのでしょう。
 「顧みられない熱帯病」は英語では“the Neglected Tropical Diseases (NTDs)”といい、WHOが「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義した17の感染症のことです。寄生虫による感染症と、細菌やウイルスによる感染症に分けられますので、下の表を見て下さい。
 この中でかつて日本で流行したことのある病気は、土壌伝播寄生虫症※1、住血吸虫病※2、リンパ系フィラリア症※3、狂犬病、ハンセン病、トラコーマです。これらの病気は日本でも長年にわたって流行してきましたが、媒介する昆虫や貝が住む環境を整備したり、学校で定期的に駆虫剤を服用させたり、犬には狂犬病の予防接種を施したりして感染経路を断つ施策を進めてきました。ハンセン病のように、その後の研究で感染力がごく弱いことが判明し、発症しても早期に適切な治療を行えば、治癒が可能となった病気もあります。このように日本では、戦後の経済復興期に政府と企業、家庭が一体となって社会から感染症をなくそうと取り組み、その結果、現在の日本においては感染症の流行は格段に減りました。
 しかし、世界に目を向けてみると、戦乱や政治の混乱、自然災害のために経済発展が遅れ、貧困により診断や治療ができない人が多いのが現状です。感染症対策も後回しになった地域では、複数の感染症が同時に流行する「コエンデミック(同時常在流行)」もおきています。人やモノの移動につれ、国内へ感染症が“輸入”されるケースも増えており、決して遠い国のニュースという訳ではありません。
 現在WHOが感染症制圧のための方針を決定し、資金の調達は官民資金、医薬品の開発・製造は製薬企業、実際に現地へ薬品を届けたり治療にあたるのはNGOや現地政府というように、各団体に資金が提供され、それぞれの専門分野で精力的に活動が行われています。
 企画展会場では、パネルによる解説のほか、WHO、国境なき医師団日本、セービンワクチン研究所などのご助力により、これらの感染症を紹介したDVDをご覧いただけます。また、顧みられない熱帯病を中心に、感染症の歴史や三大感染症を紹介した図録も作りましたので展示・図録ともぜひ一度見ていただけるとうれしいです。

寄生虫による感染症 細菌やウイルスによる疾病
シャーガス病
リーシュマニア症
アフリカ睡眠病
土壌伝播寄生虫症
包虫症
食物媒介吸虫類感染症
ギニア虫感染症
リンパ系フィラリア症
河川盲目症
住血吸虫病
嚢虫症
デング熱
狂犬病
ハンセン病
ブルーリ潰瘍
風土性トレポネーマ症
失明にいたるトラコーマ


企画展会場のエントランスパネル
顧みられない熱帯病にかかった人々の様子やさまざまなNPOの活動を紹介する写真が並んでいる。

注)
※1 土壌伝播寄生虫症=ぎょう虫などの寄生虫。捨てられた排泄物や汚水が土壌にしみ込み、飲料水が汚染されたり、糞便を肥料に使うことで寄生虫の卵が経口感染した。
※2 住血吸虫病=“水腫脹満”と呼ばれた。肝臓などに虫卵の塊ができたり、重症の場合は腹水がたまる。
※3 リンパ系フィラリア症=バンクロフト糸状虫に感染するとリンパ節に炎症が起き、リンパ液が滞って発熱や象皮病、陰嚢水腫などを引き起こす。“疝気;せんき”と呼ばれた病気に含まれる。

≪参考にしたウェブサイト≫
WHO(世界保健機関)
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
日本製薬工業協会
医薬品アクセスとは(エーザイ株式会社)
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