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救急箱 (2009.11.06 稲垣裕美) コレクションノート 近代の医療器具とくすり


救急用薬箱
木製/大正時代 13x24x18
(Z00128)
 突然の怪我や急病の際に、救急箱はなくてはならないものである。現在では、防災用として備えてある家庭も多い。ただ、必ずしも写真のような箱型の容器ではなく、ファースト・エイド・キットや携帯用救急セットという名前で、袋に入っているものもある。

 「救急箱」の「救急」の語の元々の意味は、「急難を救うこと」とあるが、これは、飢饉の際の救助のための「救急田」「救急稲」という熟語として使用されていたものである。「救急」「救急箱」という言葉が使われるようになったのは、日本赤十字社の書籍から明治後期以降のことと推測される。1896年(明治29)刊行の冊子『日本赤十字社篤志看護婦人会協定』には、「急救法」の文字が使用されている。また1902年(明治35)に日本赤十字社が一般向けに刊行した『通俗救急処置』の中では、「救急箱」の項目がある。したがって、用語としての「救急箱」は、1886年(明治19)日本赤十字社の設立以降に使われるようになったと考えられる。
 なお、『通俗救急処置』には、「救急箱は一定の製式あり。本編述るところの救急処置(てあて)は特に此品物を応用して施行すべき所なれば此書に籍(よ)るものは各自常に貯へ不虞(ふぐ)の用に供へ且つ旅行等には可及的(なるたけ)携ふるを良しとす。」と書かれ、次に中に納めるべき薬品や器具類を挙げている。また、救急箱の代用品である「救急小包」も紹介されている。これは消毒綿・巻軸帯・硼酸末・明礬末の4点で厚渋紙の袋に入れて封をしたものである。また、この項の最後には救急箱を作る際の図面が掲載されている。

 1923年(大正12)関東大震災が起こり、その後1925年(大正14)に『広辞林』(三省堂)が刊行された。この辞書では、「救急」の意味として、「(1)さしせまりたる困難を救助すること」以外に「(2)急場の手当を施すこと」という意味も記載されている。「救急箱」は、「急病又は負傷などに、当座しのぎの手当をなすため、普通使用せらるる薬剤其他を順序よくいれたる箱」と説明されている。
 1930年(昭和5)刊の医療器具のカタログ『山口商報』には、「携帯救急治療凾と其用途」として、一具15円のものが紹介されている。ここでは、その利用先・利用目的として、「各官衙(かんが;役所)、各学校、集会所、劇場、寄席、大会社、商店、工場、船舶、農業、旅行、其他」が挙げられ、当初の用途は、人々が多く集まる場所への設置であったことがうかがわれる。
 昭和初期には、戦地における衛生兵や赤十字社の活動が新聞やラジオを通じて知られるようになる一方、軍国主義の下で、常に非常事態に備える必要があった。したがって、一般家庭へと普及していったのはこの頃ではないかと思われる。

◇大正時代の救急箱
 当館で収蔵している救急箱は、「木村薬学博士 小田医学博士選定 婦女界 救急凾」と書かれている。『婦女界』は1910年(明治43)に同文館(1913年に婦女界社と改称)が創刊した雑誌で、「救急凾」は婦女界社代理部製となっている。当時は、雑誌社が通信販売を行うことがあり、この救急箱もそこで販売されたものと思われる。

1 日本薬局方アセチールサリチール酸錠 0.5g 25錠入り
2 日本薬局方健胃錠 0.35g 50錠入り
3 ヂアスターゼ錠 0.13g 60錠入り
4 枸櫞酸(クエンさん)カフェインアンチピリン錠 0.1g 50錠入り
5 セラヂン錠 0.5g 25錠入り
6 ブルガリア乳酸菌ブルガリン錠 0.25g 50錠入り
7 タンニン酸アルブミン錠 0.2g 50錠入り
8 カスカラサグラダ越幾斯(エキス)錠 0.12g 60錠入り
9 (なし)    
10 日本薬局方稀ヨード丁幾 15g入り (木筒入り)
11 日本薬局方過酸化水素液 50g入り  
12 日本薬局方亜鉛華澱粉 50g入り (田辺製薬製)
13 日本薬局方硼酸 50g入り (田辺製薬製)
14 日本薬局方石灰擦剤 15g入り  
15 日本薬局方白色ワセリン 20g入り (紙箱入り)
16 日本薬局方グリセリン 25g入り  
17 日本薬局方硼酸軟膏 20g入り (紙箱入り)
18 日本薬局方丁子油    
19 亜鉛華絆創膏    
20 (なし)    
21 精製綿 50g  
22 繃帯    
23 精製ガーゼ(消毒済)   6包入り
24 グリセリン潅腸器 1個  
25 ピンセット 1個  
26 剪刀 1個  
27 綿棒 2個  
28 洗眼器    

◇救急に関する資料

ポスター「応急手当法」
陸軍省医務局
東京 紙製
昭和17年(1942) 52x37
(Z25173)
急に具合が悪くなった時の手当ての方法を絵入りで紹介している。

諸薬品入
木製 昭和20年以前 8x9x4 (Z00102)
第二次世界大戦が近い時代に作られたものか、「空襲に、錬成に」と書かれた説明書が入っている。


救急用薬品携帯バッグ
昭和化工
東京 布製
昭和20年以前 23x20
(Z23500)
薬品のほか、握り鋏など実際に使われたものが入れられている。

米軍の携帯用薬品入れ
アメリカ 金属製
6.5x9.5x1
(Z27397)
主に注射剤が入っている。

<主な参考文献>
日本赤十字社篤志看護婦人会教程 足立寛講述 日本赤十字社 1896
通俗救急処置 足立寛講述 日本赤十字社 1902
山口商報 第32版 山口器械店 1930
広辞林 金沢広三郎編 三省堂 1925
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